1912年、北大西洋に沈んだタイタニック号。
世界で最も有名な海難事故であり、1500人以上が犠牲となったその悲劇の中、ある一人の“酔っぱらい”が奇跡的に生還したことをご存じでしょうか?
その男の名はチャールズ・ジョフィン(Charles Joughin)。
彼の「飲んだくれサバイバル」は、100年以上経った今も語り継がれています。
パン職人が生還者?──チャールズ・ジョフィンの物語
チャールズ・ジョフィンは、タイタニック号のチーフ・ベイカー(パン職人長)として乗船していました。
事故発生当時33歳だった彼は、船が沈みゆく中で 「ブランデーをあおり、冷静に救助活動を手伝い、最後は自ら海に飛び込んで生還」 という、まさに映画のようなサバイバル劇を繰り広げます。
驚くべきは、氷点下の海水(約-2℃)に約2時間も浸かっていたにもかかわらず、低体温症で命を落とさなかったという点。
彼自身が語った証言は、
「とにかく寒かったが、酔っていたので恐怖心はあまりなかった」
というものでした。
「酔っていたから助かった」──そんなバカな?
と思いたくなる話ですが、実はこれ、科学的に完全なデタラメとも言い切れないのです。
“酔っぱらい無双”は本当?科学で読み解くジョフィンの奇跡
アルコールの鎮静作用がパニックを抑えた?
極限状態ではパニックによる過呼吸や過剰な動きで体力を消耗しやすいもの。
アルコールには不安を和らげる鎮静作用があり、恐怖心をやわらげる効果があるとされています(※CDC資料より)。
ジョフィンも「落ち着いていられた」と語っており、冷静さを保ったことが生還の大きな要因だった可能性があります。
アルコールによる血流促進で凍傷リスクを軽減?
確かにアルコールは体温を下げるリスクがある一方で、血管を拡張し手足の血流を維持する作用があります。
低体温症では、まず手足から動きが鈍くなり溺れるリスクが高まりますが、ジョフィンは最後まで泳いで動けていたと記録されています。
つまり、「手足が動かせた」=生存率が上がったとも考えられます。
ジョフィンの体格と“動き続けた”行動力
ジョフィンは比較的がっしりした体格だったとされており、これは体温維持に有利です。
さらに彼は 「海に飛び込んだ後も常に泳ぎ続けていた」 という証言が残っており、これが血液循環の維持につながったと考えられます。
加えて、最終的に救命ボートB号の側面にしがみついていたことで、水中に全身が沈まなかったことも重要なポイントです。
医学的には危険!酔って助かるのは例外中の例外
一方で、アルコールは本来、低体温症リスクを高める行為とされています。
- 体温を下げる
- 判断力・体力を低下させる
- 酩酊状態での行動はむしろ危険
つまり、「酔っていたから助かった」は神話のようで、あくまでジョフィンの体格・行動・運が重なった“奇跡”であることを忘れてはいけません。
ジョフィンの生還は「奇跡の化学反応」
チャールズ・ジョフィンが生き残れた理由をまとめると:
要因 | 影響 |
---|---|
アルコールの鎮静効果 | 恐怖心を和らげ、パニックを防止 |
血管拡張による血流促進 | 四肢の動きを確保し溺死を回避 |
がっしりした体格 | 体温の維持に有利 |
動き続けた行動力 | 体温低下を遅らせた可能性 |
ボートにつかまった幸運 | 水中に完全に沈まなかった |
タイタニックの奇跡は「お酒のせい」だけじゃない
結論:
「お酒を飲んでいたから助かった」──だけじゃなく、冷静さ、動き続けた体力、偶然の幸運、全てが重なった結果
なのです。
もしあの時、ジョフィンが恐怖で動けなくなっていたら?
もし救命ボートがそばになかったら?
彼の生還は、まさに「奇跡の積み重ね」でしかなかったのです。
さいごに:歴史の片隅の奇跡に、科学の光を当ててみよう
タイタニック号の物語は「悲劇」として知られていますが、ジョフィンのエピソードのように、科学的に解き明かせる「人間の限界を超えた瞬間」が隠れています。
「酔っぱらいが助かった」という逸話の裏には、医学、心理学、生理学が交差する奥深い人間ドラマがあるのです。
次にお酒を飲むとき、この話を思い出してみてください。
「酔っぱらっても助かるかも!」と思うかもしれませんが…
ジョフィンのような奇跡は、二度と起きないかもしれません。
参考文献
- Encyclopedia Titanica – Charles Joughin Biography
- Walter Lord, A Night to Remember (1955)
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC)「Alcohol and Cold Exposure」
- ScienceDirect「Effects of alcohol on thermoregulation and cold tolerance」
- BBC Documentary「Titanic: The Final Word with James Cameron」(2012)